名古屋高等裁判所 昭和25年(う)907号 判決 1950年7月26日
被告人
新井允成こと
朴允成
主文
原判決を破棄する。
本件を名古屋地方裁判所に差し戻す。
理由
尚職権を以て原裁判所が為した訴訟手続の当否に付いて調査すると、原判決が原判示事実を認定するに際つて、朴連順並被告人の検察事務官に対する供述調書を援用していることは前敍の如くであるが、同朴連順の検察事務官に対する供述調書中には、之が供述者である朴連順の署名は勿論之を代書した旨の記載も存しないこと並びに右被告人の検察事務官に対する供述調書には之が作成者である検察事務官の署名捺印を欠き、僅かに記名押印の存する事実を認め得るに過ぎないことが、本件訴訟記録に編綴されている右各供述調書により明らかであるから、前者に付いては刑事訴訟規則第六十一条、後者に付いては同規則第五十八条に夫々違背して作成されたものと謂うべく、然らば、斯の如きは之が作成されたときの情況に照し証拠とすることが出来ないものであるに拘らず、原判決が之等をも援用して原判示の有罪事実を認定したのは、原裁判所の訴訟手続に法令の違反が存するものと謂うべく、該違反は、之を原判決には曩に弁護人の論旨に関し説明した如き違法あることに鑑み、判決に影響を及ぼすことも亦明らかである。